及川眠子×松尾貴史 スペシャルトーク 第1回「とにかく人を分類したがる日本人への違和感」
テーマは「仕事」。松尾さんを「努力型の天才」と称する及川さんに対し、松尾さんは「物事は中途半端でいい」と持論を展開する。
松尾―――楽しむための工夫も重要ですし、仕事への臨み方も大事ですよね。よく僕は「いろんな仕事をやっている」と言われますが、自分ではそう思っていません。僕は“四重人格”とでも言いますか、自分の中に「芸術家」「職人」「学生」「商売人」という4つの人格がいて、仕事ごとにそれぞれの人格が現れる感覚なんです。
ギャラの多寡に関係なく、とにかくやりたいと思える仕事は「芸術家」として。気は進まないけどほかの奴がやるより僕がやったほうがマシだと思う仕事は「職人」として。ギャラが低くて大変そうだけど、学べることが多いと感じたら「学生」として。そして、とにかくギャラ優先で受ける仕事は「商売人」として……といった具合です。
及川―――私なら「作家(作詞家)」と「職人」と「社長」の“三重人格”かな? ただ、どの人格でも嫌な人との仕事は断っちゃいますけどね。
松尾―――僕も仕事を断るときは共演者やスタッフが理由です。前に酷い目に遭ったとか、そういうのは我慢する必要ないですよね。
及川―――逆に、やりたい仕事があるのに、周囲から勝手にカテゴリ分けされて迷惑することってありませんか? 私の業界はとにかく分業制なんです。アニソンの歌詞を書いている人が演歌や歌謡曲の歌詞を書くことは非常に稀で、逆もまた然り。
そもそも私はWinkへの歌詞提供で初めて名が売れたのですが、そこからアイドル系の仕事が一気に増えた時期がありました。そこで、ほかのジャンルにも詞を提供したいと言ったら、「でも眠子さんはアイドル専門でしょ?」と言われるんですよ。そんななか、縁あってやしきたかじんに詞を提供したら、今度はムード歌謡の仕事ばかり舞い込み、アイドルの仕事はピタッとなくなってしまった。そして『新世紀エヴァンゲリオン』のテーマソングでヒットしたら、そこからはアニソンばっかりに(笑)。こちらは何も意識していないのに、ヒットしたらその専門の人みたいになってしまう。
ただ、私は松尾さんと違って「書くこと」しかできませんが、作詞という点において、これだけ音楽のジャンルを跨いで仕事している作詞家って、おそらく私くらいだと思うんですよ。でも、そうなったらなったで「本当は何を書きたいの?」と言われる。なんかイヤなんですよね。松尾さんもよく言われませんか?
松尾―――言われますね~。「本業は何ですのん?」って。僕もすごくイヤです。本業とか別にどうでもええやん、“僕は僕”でいいじゃないですかと思います。日本人って、“どこに帰属しているのか”で安心しようとしますよね。「しょうゆ顔・ソース顔」とか「まるきん・まるび」とか、血液型もそうでしょう。血液型の話が大好きな日本人、多すぎません? 外国に行ったら血液型の話をするバカなんていないのに。枠からハミ出ることを怖がって、とにかく分類したがるんですよ。
及川―――私が新人のときも、よく「ユーミンに似てる」とか「中島みゆきに似てる」とか言われたっけ。人によって違うけど、とりあえず「○○に似てる歌詞を書く人」という評価。そして、売れたら売れたで、今度は「都会派作詞家」とかになり、現在はずっと「エヴァ作詞家」という肩書きで呼ばれている。
松尾―――「ナントカ派」って、ホンマ気持ち悪い言葉ですよね。近年、気になるのは「演技派女優」。イヤイヤ、女優は演技して当然やろ、演技せーへん女優なんてどんな女優やねん、と思うけど、そんなん多いですよね。
及川―――括られることがストレスとは言わないけど、なんかウンザリするよね。だから「何系」とか「何派」とか好き勝手に肩書きを付けられるけど、私自身はただの「作詞家」を名乗るようにしています。
松尾―――面倒臭いですよね。括るなら、いっそのこと「地球人」とかでいい。「アフリカ系アメリカ人」とか言うけど、そもそも人類はアフリカがルーツやから、正しくは「アフリカ系地球人」。だから、みんな地球人でええんですよ(笑)。
次回に続く
※4月16日にロフトプラスワンウエストで行われた及川眠子『誰かが私をきらいでも』(KKベストセラーズ)×松尾貴史『違和感のススメ』(毎日新聞出版)発売記念特別対談をもとに構成
- 1
- 2